黄金の覇王と奪われし花嫁
「バラク、だめっっ」

耳元でユアンの叫び声が聞こえたのと、目の前の女ーと思っていた人物が長剣を振り下ろすのがほぼ同時だった。


ーーまずいっ。


バラクは利き腕を失うのを覚悟で、咄嗟に右腕を差し出した。

が、鈍い光を放つ切っ先はバラクの腕を掠めただけで、バラクを庇うように飛び出してきたユアンの肩に深々と突き刺さった。

「ユア・・・ン・・」

背中をつたう生暖かい血の感触。
血の気のひいた真っ白な頬、浅く早い呼吸。

ユアンの傷は肩だ、この程度なら致命傷にはならない。

普段のバラクなら例え自分の傷であっても、そう冷静に判断を下しただろう。

けれど今は、

何も見えず、

何も聞こえず、

何も考えられなかった。

目も耳も脳も、その機能を奪われたかのように停止していた。




「ーー邪魔するな、女」

剣を突き立てた人物が女の衣をバサリと脱ぎ捨てた。
ちょうどその時、隠れていた月が姿を現しその男を照らした。

夜の闇に溶け込むような黒く長い髪、顔立ちは美しく整っているが冷たく狡猾そうな印象を与えるのは、その無機質な瞳のせいだろうか。

黒蛇ことハカ族の族長ネイゼルはユアンの身体を抱えあげると、いつの間にか側に控えていた男へ放り投げた。

「ロキ、ウラールの女だ。
とりあえず、もらっておけ」


「ーー返せっ」


バラクははっと我に返り、ユアンを取り返すべくネイゼルの側近の男へと向かっていく。

「お前の相手は私だろう?」

「退けっ。囲まれるぞ、バラクッ」

バラクの前にネイゼルの剣が立ちはだかったが、追いかけてきたナジムの剣がそれを遮った。

いつの間にか、バラクの周りを取り囲むようにハカ族の者が近づいてきていた。
< 41 / 56 >

この作品をシェア

pagetop