黄金の覇王と奪われし花嫁
「さっさとしろっ」

ナジムは向かってくる敵を振りはらいながら後退をはじめる。
そして、一歩も動かないバラクを叱咤するように怒鳴りつけた。


「・・・ユアンを取り返したら、すぐ追いかける。 先に行っててくれ」

「ばかやろうっ。 女一人のために何を考えてる!? 今すぐ退けっっ」

危険を冒してまでネイゼルに挑もうとするバラクにナジムは怒りをぶつけた。

ナジムの怒りはもっともだ。
ずいぶんと周到に準備された罠だったようで、近くに味方はいない。
ハカ族の男はざっと数えて数十人。

まともに戦ったら、確実に死ぬだろう。

全力で仲間のいるところまで逃げるのが今できる最善策だ。
それでも生き残れる可能性は3割がいいとこだろう。


こんなところで死ぬわけにはいかない。
死んでたまるかっ。


けれど、バラクの足は動かなかった。


その時だった。気を失っているように見えたユアンがうっすらと目を開け、二人の視線が交錯した。


「ーーユアンッッ」


「・・・バラク。約束を・・必ず・・守って・・」


その声は思いのほか力強く、はっきりとバラクの耳に届いた。

約束・・・そうだ、ユアンに新しい世界を見せてやると約束した。

何を犠牲にしても歩み続けると決めた、俺の道。


バラクは無意識にふっと笑みを浮かべていた。自分はまだまだ未熟で、馬鹿で、何もわかっていなかった。


「ユアンッ、生きろ。生きろよっ」

バラクは大きな声で叫んだ。

生きてさえいれば、必ず取り戻す。
ユアンは俺のものだ。
初めて会ったあの瞬間から、ずっと。


バラクの答えを聞いたユアンは満足気に微笑んだ。
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