黄金の覇王と奪われし花嫁
ーーバラクが死んだ??

嘘だ。そんなはずはない。

ネイゼルが本当の事を教えるとは限らない。 バラクの剣はアリンナでも一、二を争う腕前だ。側にはナジムもいた。
逃げるだけなら容易いはず。


でも・・・意識が朦朧としていてはっきり覚えていないけど、ハカ族の男はかなりの人数だった。いくらバラクでもあの包囲を抜けるのは無理だったのかも知れない。


ネイゼルの言う通り、バラクは殺されてしまったのだろうか。


ユアンは眠れぬ夜を過ごしていた。
肩の傷からくる発熱は今だに下がらず、呼吸をするだけでもかなり苦しい。


「失礼します」

天井から吊るされた長布の向こうからくぐもった声が聞こえてきた。

「・・・誰?」

ユアンの問いには答えず、すっと二人の女が室に入ってきた。
一人はとても背が高く、もう一人は小柄で華奢な女だ。

二人とも不自然なほどに深々とベールを被っていて、顔が全く見えない。



「・・なに? 誰なの!?」

思わず声を荒げたユアンの口を背の高い女がさっと封じた。女とは思えない身のこなしだ。

それに、この香りには覚えがある。
この腕も、大きな掌も。

まさか・・・


「ーーバラク??」


「正解」


はざりと脱ぎ捨てたベールの中から、黄金の髪が零れ落ちた。
同じく、もう一人の女もベールを脱ぐ。

「ーートゥイ?? どうして??」


「ユアン様、ご無事で何よりです」

トゥイはにこりと微笑んだ。


混乱して何も言葉が続かないユアンをバラクはぎゅっと力強く抱きしめた。


「生きていて、良かった」

バラクにそう囁かれ、ユアンはふっと身体中から力が抜けていくのを感じた。
ポロポロと涙が頬を伝う。

バラクが生きていた。
また、この胸の中に戻ることが出来た。

それだけで充分だった。

ユアンはバラクの背中をぎゅっと握り返した。 きっとこれだけで伝わるはずだ。



「はいはい。お二人とも、再会の喜びは後で存分に確かめ合って下さい。
今はまだ敵地ですからね」

冷静なトゥイの声が飛んできて、ユアンははっと我に返る。


「そ、そうよ。 一体、どういう状況なの??」

「あぁ、奇襲のお返しに来た。ついでに女装も真似してやった」

バラクはからりと笑って言った。

「え!? じゃあ、皆来てるの?」

「そうですわよ。ユアン様を取り返す為にウラールの精鋭がすぐ側で待機しています」

「そんな無茶なこと・・・ここで助かっても後でナジムに殺されそうだわ」

「心配するな。 ちょっとした算段はあるから」

「どういう事?」

「ネイゼルのところに案内してくれないか、ユアン」
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