黄金の覇王と奪われし花嫁

◇◇◇

「バラク、次はどこをどう攻める?」

バラクの右腕であるナジムは穏やかな微笑を浮かべて、穏やかでない話題を口にする。

ナジムはウラール族が辺境の弱小部族で虐げられてばかりだった頃からバラクと苦楽を共にしてきた。
バラクが最も信頼を置く男だ。


バラクはゆったりとした動作で蜜酒を口に含むと、頭の中に描いた地図の駒を動かした。

「ダキ族を叩く。狙いはもちろん、シーン族だ」

「ダキ族はともかく、シーン族はいまだ強大だぞ。 早すぎやしないか?」

ナジムが珍しくバラクに異を唱えたが、バラクは首を振った。

「いや、今だ。今がその時だ。
シーン族に勝利すれば、名実共に俺たちは有力部族の仲間入りだ。
いつまでも辺境部族に留まっていたら、アリンナの統一なぞ夢で終わる」


「勝てるか?」

ナジムは射抜くような鋭さでバラクを見据えた。

「勝てる」

バラクは静かに、しかし力強く言い切った。

「お前がそう言うなら、従うのみだ」

ナジムの言葉に、バラクは満足気に頷いた。

バラクは決断から行動までのスピードが異常に早い。 相手に考える暇も逃げる隙も与えない。
動物的とも言えるバラクの判断力とそれを支えるナジムの冷静な頭脳で、ウラール族は急激に勢力を拡大してきた。

この時も決断の翌日にはダキ族のオルタに向かって、精鋭部隊が馬を走らせていた。

もちろん、先頭を行くのは黄金の狼バラクだ。


日が西に沈む頃には決着がついた。

ウラール族はダキ族の財産と女を奪い、勢いそのままに今度はシーン族へとその牙を向けた。
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