黄金の覇王と奪われし花嫁
「くそっ」

降りかかる矢を避けつつ、バラクは思わず悪態をついた。
突破力を武器に短期決戦で勝利を重ねてきたウラール族にとって、シーン族は手強い相手だった。

シーン兵は数が多い。にも関わらず、よく統制がとれていて乱れがなかった。

バラクはあらゆる方向から揺さぶりをかけたが、迂闊な動きは決して取らず隙を見せない。

戦をよく知る経験豊富な将が率いている証拠だ。


「最強と謳われるシーン族のガイール・・・想像以上に厄介だな」

その言葉とは裏腹に、バラクは心が浮き立つのを感じていた。

手強い相手と戦うのは、純粋に面白い。
命を賭けた、ピリピリとした緊張感がバラクは好きだった。

ナジムにはとても言えないが、ガイールにならば例え負けても後悔はない。

そして、勝利できれば得るものはとてつもなく大きい。
シーン族の騎馬隊を、ガイールの戦術を、身をもって知ったことは今後の大きな助けとなるだろう。

シーン族の名声、財産も全て受け継ぐことになる。

それから、ガイールの血を引く女。

バラクはこれまで、勝利の証として得る他部族の女に無頓着だった。

女達は名目上はバラクのオルタ(住居、転じて後宮の意味を持つ)に納められるのだが、功績をあげた部下に下賜するか、同盟を結んだ部族に嫁がせるかで長く止め置くことはしなかった。


しかし、これだけの才能を持つガイールの血を引く女ならば是非とも自分のものにしたいとバラクは思った。

その為にも、この戦いには必ず勝利しなければならない。
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