学校の屋上
(8)~怖い~
ドアをノックする音が聞こえた。
慧太はそれが誰だか見当がつかなかった。
先生がわざわざ屋上に来ることはなかなか無いし、部外者だって入ってこない。
……………アリスか……?
いや、昨日あんなひどい態度をとったんだ。
あいつは俺のことなんか忘れて今頃家にいるだろう。
でも今俺はあいつに、来てほしいと思った。
思ってしまった。
声が聞こえた。
間違いない、アリスの声だ。
そして、慧太の頭の中にはドアをノックする音が響いた。
……………もう、なんなんだよっ!
慧太は、ドアを開けた。
「何しに来たんだよっ!」
「…えっと……謝りに………」
びっくりした。
何を謝りに来たのかが、慧太にはわからなかった。
「ごめんなさいっ!!私、なにか分からないけど嫌なことしたんでしょ?だから……」
「お前は悪くない。」
彼は低い声でそういった。
私の声をさえぎって。
「えっ?じゃあ、なにがわ……」
「どうでもいいだろ!もういいから帰れっ!」
急に怒鳴られて、アリスが呆然としていると彼はさらに続けた。
「お前はもう、ここに来んな!」
……………………え?
「なん……で?」
……嫌だ……帰りたくないっ!
今帰ってしまったらもう二度と、彼とここまで近づけないと思った。
だから、アリスは動かなかった。
せめて……せめて理由だけ………
そのときだった。
慧太の顔がさっきよりも近くにあった。
慧太が部屋から出てきたのだ。
パタン……
ドアがしまる音と同時にアリスの背中はドアにくっついた。
…………っ痛い!
気がつくとアリスの両腕は慧太に掴まれていた。
必死に振り払おうとしたけどちっとも動かない。
アリスはそのとき初めて男の子の力の強さを知った。
………………怖い
脚が震える。
「ちょ……離しっ」
そのとき、慧太の唇がアリスの唇に強く押し当てられた。
……………っ!?
え?ちょっと?
そんな……………やめてよ………
「やめてよっ……!」
アリスは持っていたバックで慧太を殴った。
慧太がアリスから離れる。
その瞬間アリスは走って慧太から離れていった。
帰り道は涙でぼやけてよく見えなかった。
彼女の足音がだんだん遠のいていく。
「……すまない。」
慧太は消えかかった足音にそう呟いた。