イレカワリ~番外編~
一瞬、時間が止まる。


海は俺を見て険しい表情になる。


しかし何も言わず、走り出した。


手にはスマホを持っていたから、沙耶の両親に連絡を入れに行ったのかもしれない。


そう思うと、途端に不安に襲われた。


沙耶はそんなに悪いのか?


俺は病室に一歩足を踏み入れる。


そこは別世界だった。


青白い顔をした沙耶が点滴を受けながら、荒い呼吸を繰り返している。


「沙耶……?」


俺は小さな声でそう言い、ベッドに近づいた。


沙耶が目を開けて俺を見る。


沙耶のうるんだ瞳を見るのはこれで何度目だろうか。


その目を見るたびに俺は心臓が潰されるような苦しみを感じて来た。


「歩……」


沙耶が苦しげに俺の名前を呼ぶ。


こんな状態でもちゃんと俺と海の区別がついている沙耶。


さすがだな。


そんな事を思う。
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