イレカワリ~番外編~
☆☆☆

自転車を走らせていると、海の記憶をまた思い出していた。


潮風を浴びて3人で遊んだ浜辺。


沙耶と歩と俺の笑い声で満ちていた日。


家の近くのコンビニに立ち寄り、沙耶が好きそうな雑誌とおやつを買った。


自分の分のジュースも一本買って、袋に入ったそれを自転車のカゴに入れた。


強い日差しを感じながら、俺は立ちこぎを始めた。


カゴの中の買い物袋が音を立て、その分グングンと沙耶に近づいていく。


明日から二学期が始まる。


沙耶に会う時間は少なくなるけれど、週末や放課後の時間がある日は必ず会いに行こう。


丘の上に白い総合病院が見えると、俺は更に自転車のこぐ足に力を込めた。


ゆるく続く坂道に呼吸が乱れていく。


それでも俺は休まなかった。


どんどん沙耶に近づいている。


その事が嬉しくて、駐輪所まで一気に駆け抜けた。


早朝の病院は人が少なく、駐輪所も空いていた。


俺はカゴから買い物袋を取り出して入口へと向かった。


街で一番大きな総合病院は、ある意味俺の行きつけになっていた。


「あら海君、今日も早いのね」


受付の女性が俺に気がつき、手をふった。


「おはようございます」


俺は会釈を返してエスカレーターへと向かう。


何度も通ったこの場所では、もう迷う事もない。


沙耶がいる507号室へ行くまでに何人もの看護師とすれ違い、挨拶をかわす。


「沙耶、来たよ」


ノックをしてそう声をかける。


「どうぞ」


沙耶はいつもそう返事をして、俺を部屋に招き入れてくれるのだ。
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