イレカワリ~番外編~
歩はそう言い、右手に持っていた紙袋を見せた。


今日のお礼。


ここねちゃんの事だろう。


「なぁ歩」


急いでいる歩を呼び止めた。


「なんだよ」


「どうして……どうして、今までここねちゃんを俺に会わせなかった?」


その問いかけに、歩は無言になった。


何も言わずただ手に持っている紙袋に視線を向けている。


「悪い。急いでるんだ」


「それ、ここねちゃんに渡すんだろ? だったら学校で会えるだろ」


俺がそう言うと、歩は困ったように眉を下げた。


「なぁ、俺の質問に答えろよ」


自分でも気が付かない内に口調がきつくなっているのがわかった。


歩の口からちゃんとした理由を聞けばきっと納得できる。


だけど、そのちゃんとした理由がなんのか、今の俺にはわからなかった。


「……ここねちゃんが沙耶に似ているからか?」


無言のままの歩に聞く。


歩はハッとしたように目を見開き、それから小さな声で「あぁ」と、頷いた。


瞬間、俺の中で何かが壊れる音がした。


やっぱりそうだったのか。


違う理由を言ってくれればそれを信じたかもしれないのに、歩はその通りだと肯定した。


「それって、どういう意味だよ」


俺は歩を睨み付ける。


返事はわかり切った事だった。


だけど、ちゃんと聞いておきたかった。
< 70 / 117 >

この作品をシェア

pagetop