イレカワリ~番外編~
「……ここねをお前に取られると思った」


歩が消え入りそうな声でそう言った。


だけど、それはハッキリと俺の耳まで聞こえてきた。


「はっ……」


息を吐き出すように笑った。


「なんだよそれ。俺がここねちゃんを好きになるって……」


力を込めて握り拳を作った。


「俺は沙耶が好きだ。それなのに、なんでそんなこと……」


声も震え始めているのがわかった。


体が心から熱くなっていく。


「でも、沙耶はもう……」


そう言った瞬間、俺は歩の頬を殴りつけていた。


握りしめた拳が歩の頬にぶつかり、音が鳴る。


歩はその衝撃でその場に倒れ込んでしまった。


紙袋が転がり、中から包装されたものがでてきた。


今日のお礼にと、歩が用意していたものなのだろう。


だけど沙耶にはプレゼントは用意されていなかった。


「なんだよ、沙耶はもうってなんだよ!!」


俺はその紙袋を踏みつけて叫んだ。


歩は何も言わずジッとそれを見ている。


「答えろよ! 俺には沙耶がいる。それなのにここねちゃんをとるって、なんでそう思ったのか!!」


「沙耶は……きっと、もう長くない」


歩の声が俺の鼓膜を刺激した。
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