イレカワリ~番外編~
俺はスゥと息を吸い込んで、一歩足を踏み出した。


このままじゃ授業にも出られないから行くだけだ。


ここねがどんな状態だろうと気にしなければいい。


俺は自分にそう言い聞かせて下駄箱の前に立った。


履き替えるためにすのこが引かれているが、コンクリートの上にここねはいた。


自分の写真を両手に抱え、うずくまったまま泣いている。


俺の足音が聞こえたのか顔を上げてこちらを見た。


その泣き顔に胸がチクリと痛む。


泣き顔までも、沙耶にそっくりだった。


だから、ここねには笑っていてほしかったのに……。


もう、無理だった。


「あ……ゆむ……」


ここねがか細い声で俺の名前を呼ぶ。


助けを求める声だとわかっていた。


だけど、俺はそれに答えず自分の下駄箱の前に立った。


「これ……この写真……違うの……」


返事をしない俺へ向けてここねは言葉を続けた。


俺はわざと大きな音を立ててシューズを取り出し、そして蓋を閉めた。


ジッとここねを見下ろす。


その視線にここねはビクッと身を震わせた。


そして、その目に一気に涙があふれ出す。


ここねが大きな声を上げて泣き出しても俺は振り返る事なく、歩き出したのだった……。
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