エドガー
3日目と4日目
三日目。
エドガーが目を覚ますと、やっぱりロクは起きていた。他の兄弟たちよりも早くに起きていたらしい。
「おはよう」
「おはよう、エドガー」
今日は早く着替えようとエドガーがハンモックの上にある着替えを手に取る。麻で出来たシャツとズボンは、とても軽い。
「今日も仕事をするのかい?」
「そうだよ。1日だって欠かせないからね」
こころはすぐに汚れてしまうから。
ロクはそう言った。
エドガーが着替え終わった頃、兄弟たちも目を覚まし、それぞれが着替えていく。
寝癖がついているものは、ブラシでそれをとかし、また違うものはボタンの掛違いを直しているのを、エドガーはぼんやりと見つめた。
「僕らはどこから来たんだい?」
ふとした疑問を口にすると、ロクが聞いていたのか、振り返って静かに首を振った。
「そのうちわかるよ、エドガー」
初めて、ロクはエドガーの質問にはっきりと答えをくれなかった。
「僕、こころを空に返すところを見たいな」
エドガーが言うと、ロクは眉間に皺を寄せた。
「かみさまの仕事は、邪魔しちゃいけないんだ」
「見てるだけでも?」
「見てるだけでもさ」
真剣な顔でいうものだから、エドガーはそれ以上ロクに聞くのをやめた。
「さぁ、仕事をしよう」
藍色の部屋で昨日と同じ作業をしながら、エドガーはぼんやりとかみさまのことを考えた。
どんな顔をしているのだろう。
どんな仕事をするんだろう。
ロクはああ言ったけれど、好奇心は抑えられなかった。
そのせいで作業の手が止まり、エドガーは5回もロクに咎められてしまった。
そうして夜が明ける頃、ロクが作業を終える声をかけ、兄弟たちはハンモックへとかえっていく。
エドガーは、密かに決めたことがあった。
かみさまを、見てみよう。
どうしてそう思うのかは分からなかったが、エドガーはかみさまが見たくて仕方が無かったのだ。
みんながハンモックに横たわり、眠りについた頃、エドガーは一人ハンモックを抜け出した。
アーチを潜り、明るくなった部屋へと出る。あんなに空に浮かんでいたこころは、今は見えなくなっていた。
代わりに床が良く見える。藍色とは違う、群青色の海が広がっていた。
エドガーはいつもと違う床に足を踏み入れた。
どうやら歩けるようだ。
とてつもなく広い部屋の奥、金色の蔦の絡まったアーチを目指して歩く。
小さく見えるアーチは、遠い。
エドガーは、たくさん歩いた。
裸足の足が、ペタペタと音を立てる。
行けども行けどもアーチは近付かない。
ロクはどうやってあそこまでバケツを運んでいたのだろう。
ロクにしか辿りつけないのだろうか。
そう思ってきた頃には、エドガーは不安になってきた。
振り向くと、兄弟たちが寝ているはずの部屋からは遠いところまで来ているようだった。
行けども行けども、かみさまのところにはたどり着けそうにもない。
エドガーはすっかりくたびれてしまった。もう日も高くなっているようだ。
エドガーは兄弟のところに帰ることにした。
遠くに見えていた筈の銀のアーチはそれほど時間もかけずにたどり着くことができた。
エドガーは首を傾げて振り返る。
やはり、金の蔦が絡まったアーチは、遠いように見えた。
「起きて、エドガー」
ハンモックで寝ていると、ロクに起こされた。目を覚ますとのぞき込むようにしてエドガーの身体を揺さぶっている。
「よく寝ていたね」
「疲れているのさ」
「遠くまで行っていたのかい?」
そう聞かれて、ドキッとした。
ロクは笑っている。
「さぁ、仕事に行こう」
ロクはそれ以上エドガーに何かを聞くことはなかった。
仕事はいつもどおり始まったが、エドガーはロクに近づく事はしなかった。
どこか後ろめたい気持ちでエドガーはその日こころを磨いていた。
エドガーが目を覚ますと、やっぱりロクは起きていた。他の兄弟たちよりも早くに起きていたらしい。
「おはよう」
「おはよう、エドガー」
今日は早く着替えようとエドガーがハンモックの上にある着替えを手に取る。麻で出来たシャツとズボンは、とても軽い。
「今日も仕事をするのかい?」
「そうだよ。1日だって欠かせないからね」
こころはすぐに汚れてしまうから。
ロクはそう言った。
エドガーが着替え終わった頃、兄弟たちも目を覚まし、それぞれが着替えていく。
寝癖がついているものは、ブラシでそれをとかし、また違うものはボタンの掛違いを直しているのを、エドガーはぼんやりと見つめた。
「僕らはどこから来たんだい?」
ふとした疑問を口にすると、ロクが聞いていたのか、振り返って静かに首を振った。
「そのうちわかるよ、エドガー」
初めて、ロクはエドガーの質問にはっきりと答えをくれなかった。
「僕、こころを空に返すところを見たいな」
エドガーが言うと、ロクは眉間に皺を寄せた。
「かみさまの仕事は、邪魔しちゃいけないんだ」
「見てるだけでも?」
「見てるだけでもさ」
真剣な顔でいうものだから、エドガーはそれ以上ロクに聞くのをやめた。
「さぁ、仕事をしよう」
藍色の部屋で昨日と同じ作業をしながら、エドガーはぼんやりとかみさまのことを考えた。
どんな顔をしているのだろう。
どんな仕事をするんだろう。
ロクはああ言ったけれど、好奇心は抑えられなかった。
そのせいで作業の手が止まり、エドガーは5回もロクに咎められてしまった。
そうして夜が明ける頃、ロクが作業を終える声をかけ、兄弟たちはハンモックへとかえっていく。
エドガーは、密かに決めたことがあった。
かみさまを、見てみよう。
どうしてそう思うのかは分からなかったが、エドガーはかみさまが見たくて仕方が無かったのだ。
みんながハンモックに横たわり、眠りについた頃、エドガーは一人ハンモックを抜け出した。
アーチを潜り、明るくなった部屋へと出る。あんなに空に浮かんでいたこころは、今は見えなくなっていた。
代わりに床が良く見える。藍色とは違う、群青色の海が広がっていた。
エドガーはいつもと違う床に足を踏み入れた。
どうやら歩けるようだ。
とてつもなく広い部屋の奥、金色の蔦の絡まったアーチを目指して歩く。
小さく見えるアーチは、遠い。
エドガーは、たくさん歩いた。
裸足の足が、ペタペタと音を立てる。
行けども行けどもアーチは近付かない。
ロクはどうやってあそこまでバケツを運んでいたのだろう。
ロクにしか辿りつけないのだろうか。
そう思ってきた頃には、エドガーは不安になってきた。
振り向くと、兄弟たちが寝ているはずの部屋からは遠いところまで来ているようだった。
行けども行けども、かみさまのところにはたどり着けそうにもない。
エドガーはすっかりくたびれてしまった。もう日も高くなっているようだ。
エドガーは兄弟のところに帰ることにした。
遠くに見えていた筈の銀のアーチはそれほど時間もかけずにたどり着くことができた。
エドガーは首を傾げて振り返る。
やはり、金の蔦が絡まったアーチは、遠いように見えた。
「起きて、エドガー」
ハンモックで寝ていると、ロクに起こされた。目を覚ますとのぞき込むようにしてエドガーの身体を揺さぶっている。
「よく寝ていたね」
「疲れているのさ」
「遠くまで行っていたのかい?」
そう聞かれて、ドキッとした。
ロクは笑っている。
「さぁ、仕事に行こう」
ロクはそれ以上エドガーに何かを聞くことはなかった。
仕事はいつもどおり始まったが、エドガーはロクに近づく事はしなかった。
どこか後ろめたい気持ちでエドガーはその日こころを磨いていた。