エドガー
6日目
六日目。
エドガーは1人目を覚ました。
今日は一番に起きたらしい。
服を着替えて1人アーチを抜ける。
先に作業に入っても構わないだろうと考えたからだった。そして、あのこころが漂白されたかどうか見たかった。
銅でできたアーチには、すぐにたどり着けた。水槽は相変わらず満たされていて、こころはまだいくつも沈んでいた。
ロクが昨日投げ入れたこころはすぐにわかった。汚れは、心無しか薄くなったように見えた。
「きみはなんでそんなに汚れてしまったんだい?」
水槽越しにエドガーは語りかけてみた。
返事が返ってくることはなかったが、ことん、とこころが揺れた。

夜の部屋に戻ると、兄弟たちが起き出して作業に入るところだった。エドガーは昨日と同じく、こころを補修する作業を始めた。顕微鏡を覗き、欠けた部分に欠片をあてがい、溶接し、削り、整えていく。
目をずっと凝らしていたので、またもやエドガーの目はしょぼしょぼしてしまった。
休憩がてら、大きく伸びをひとつする。
「あっ」
「あっ」
その時、エドガーはたまたま通りかかった兄弟に気が付かなかった。身体が当たってしまい、勢いよくこころが落ちていく。
どうしよう、割れてしまう!
そう思ったが、こころは鈍い音を立てて床を転げただけだった。
割れやすそうに見えて、なかなか丈夫らしかった。
「ごめんね、エドガー」
「ううん、僕のほうこそ」
こころを広い集めてバケツにいれていく。すると、ロクがやってきた。
「どうしたんだい?」
「兄弟にぶつかって、こころを落としちゃったんだ」
「そうかい、割れているものはあったかな?」
「いいや、無かったよ。汚れやすかったり、欠けてたりするのに、案外丈夫なものなんだね」
「そうだね、でも、何もしてないのに、いきなり粉々になっちゃうこともあるんだよ」
「丈夫なのか、脆いのか、分からないものだね」
「そうだね」
エドガーはロクと話しながら、しげしげと手にしていたこころを見つめた。
でこぼこが多少あり、赤土色や、緑葉の色、いろんな色がついたそれも、いつかは割れてしまうのだろうか。
「みんな、ひとつとして同じものはないんだよ」
ロクが言った。
エドガーは、そういうものなんだ、と1人納得していた。
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