灰色の空
それから父は、不倫相手と僕と暮らし始めた。
いや、もう離婚したので不倫相手ではなく、あの人が彼女ということになるのか。

とにかく父は今までのように、なにか不満があると僕にぶつけてきた。

家族に感謝するべきことなんて、やっぱり何も思い当たらないや。

こうなれば思い切り嘘を並べて綺麗事でも書こうかと思っていたとき、向こうの部屋で父の声がした。珍しく優しい声で、僕を呼んだ。

「久しぶりにでかけないか」
あのとき、海へ連れて行ってくれたときと変わらない優しい声だった。

僕は少しだけ期待してしまった。母との離婚で少しは父も変わってくれたのでは、と。僕と出かけたいと思ってくれたのではと。

しかしその淡い期待はすぐに裏切られる。
ガソリンを入れてくるから待っていろと言われ、数十分経っても一向に現れる気配はなかった。

探しに行こうかと思い、足を動かそうとしたら知らない人に誘拐された。

こんな最悪な偶然があるだろうか。
横目で誘拐犯である女の人を見ると、目があった。

こちらを向いて笑顔を作っているが、目はどこか冷ややかで、家を出て行った母の、どこか軽蔑するような眼差しと似ているような気がした。

もしかしたら父は僕が邪魔で、この人に頼んで僕を始末するために外出させたのかもしれない。

普通の親なら子を数十分も置いて行ったりはしない、せめて携帯で知らせるだろうし、子がそこから居なくなっていれば尚更の事だろう。

心の中にじわじわと不安が広がり、足が震える。

何処へ連れて行かれるのか、何をされるのか。わからない事ばかりだけど、なんの理由もなく子供を誘拐する人なんていないという事はわかる。怖い。

女の人、いや誘拐犯に、何度か質問をしようと思ったがやめた。車の中ではまるで、僕には発言権が無いような重たい空気が漂っていた。
< 4 / 6 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop