灰色の空
「おりて」
目的地についたようだった。
ドアが開けられ、外に出る。
目の前にはごく普通の家が建っていた。

女の人が中へ入っていったので、僕も続く。

いきなり連れて来られ、一体どんな悲劇が始まるのだろうと思っていたけれど、内装は普通の家、特に変わった様子はなかった。

夕方頃まで家事の手伝いをしたり、テレビを観たり。
まるでこの家の子供みたいに過ごした。

何をされるのかと怯えていたが、脳はもうこの生活に順応しかけている。
家で父の期限を伺いながら怯えているよりもずっと居心地が良く、不思議な気持ちになった。

夜になると、二階から女の子が降りてきた。
髪を上の方で二つに結いている。
小学五年生くらいだろうか。

なんとなくあの女の人に目元が似ている気がした。

女の子は僕の隣に座った。

「こんばんは!」女の子は僕に驚きもせず、人懐こく挨拶してきたので驚いてしまった。
この家には僕の他にも人が連れてこられることがあるのだろうかとも考えた。

「こ、こんばんは、名前なんて言うの?」
「ナツミだよ」

僕はナツミと、ばらく一緒にテレビを観たり、話したりした。

他にも、学校には行っていないという話を聞いた。好きなお笑い芸人の話題で盛り上がったりもした。誘拐されたはずなのに、あたかも友達の家でお泊りをしているような気分になって、時がすぎるのを忘れていた。

気がつくともう12時近い。
女の人に、ナツミと同じ部屋で寝てと言われ、2段ベッドの上にナツミ、下に僕という配置で横になった。
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