うわさの神小牧さん
大輔。対決!そして・・・
『件名 写真についてご相談したいことがあります』
朝一でメールをチェックするのは、営業のみならずどこの部署でも当たり前の日課だ。取引先や上司からのメールを最優先にチェックすることが尾崎にとってはいつもの作業だが、今朝は違った。メールの差出人の名前に記憶がなかったが、件名の”写真について相談”という文字が気になって、まっさきにこのメールを開いていた。
差出人の名前は経理部の望月という。
(誰だったかな?)
どこかで聞いたことがある名前だけれど、結局尾崎はこの名前の人物を思い出すことができなかった。
メールを開いて本文を読む尾崎の顔がみるみる青褪めていく。
「尾崎、どうした? 顔色悪いぞ?」
返事も出来ず、ただメールの映し出されている画面を見つめていた尾崎のその手は、ガタガタと震えていた。
昼時はにぎやかな屋上も、時間も中途半端ということもあるが、正午ごろから降り出した雨のせいで急に冷え込んだということもあり、今日は誰一人いなかった。天気のよい日はこの屋上からは皇居の緑が鮮やかに見えるが、その緑も今はグレーに翳んでモノクロの写真を見ているようだった。
「おい」尾崎はせいいっぱいの虚勢をはって声をだした。自分では大声で怒鳴ったつもりだったけれど、尾崎の声は、頼りなく細く降っている雨の音にさえかき消されてしまいそうなほど頼りなかった。
「おい」もう一度、尾崎は声を張り上げた。その時、急に背後に人の気配を感じた。
はっとして振り向く。するとすぐ真後ろに大輔が立っていた。
「な、なんだよ」驚いて後ずさる尾崎の声は震えていた。
「尾崎さん、なんだか震えてますね。寒いですか?」大輔は表情を変えずに言った。
「いや…」尾崎は右手を口元にもっていき、思い切り親指の爪を噛んだ。
「は、こんなところに呼び出してどうするつもりだよ」
口から思い切り親指を引き離すと、少し冷静さを取り戻したように尾崎が大輔をにらみつけた。
「あの写真…」大輔がそう言うと、尾崎はまた落ち着きなく目を泳がせ始めた。
「あんな写真がいったいどうした!」尾崎は大輔の胸倉を掴もうと手を伸ばしたが、大輔をすっと後ろに身をひいたので、手は空を掴んでそのままだらりとぶらさがってしまった。
メールに添付されていた写真。それは神小牧さんと課長を写した写真の中に写りこんでいた店のガラス扉の中に写る人影を拡大したものだった。
「顔なんかだれかわからないじゃないか!」そう言いながらも尾崎の額には汗が、この冷え込みにもかかわらずにじんでいた。
「たしかにあの写真じゃわかりませんよ」大輔はそういうと、ipadを開いて尾崎の眼の前に差し出した。
「腕時計…写ってますよね? それを拡大したのがこれです。見覚えあるんじゃないですか?」
その時計は尾崎が自慢気に腕にしていた高級時計だった。
「珍しいタイプなんですよね? 尾崎さんの課の女性が言ってました。尾崎さんがいつも自慢してるって、日本じゃほとんど持ってるやつなんかいないはずだって」
「それは…」尾崎は何かまだ反論しようとしたが、諦めて肩を落とした。
「俺にどうしろっていうんだ。まさかこのこと会社に…」
怯えるような目で大輔を見た。
「俺は尾崎さんとは違います」大輔はきっぱり言った。
「このことは公表はしません。でも、謝罪してほしいんです。神小牧さんと課長に。そして、国重にも」
「な、なんで国重まで?!」公表しないといった時に安心した表情をみせた尾崎の顔が急に気色ばんだ。
「お願いします! 国重にしたこと。ちゃんと上司に話してください。そうじゃないとこれ、公表せざるをえなくなります」
「それは…」尾崎はさっきよりもさらにきつく爪を噛みだした。
屋上の塗れた床をうろうろ歩きながら、どうするか必死に考えているようだった。
観念したように尾崎は話し始めた。
機嫌を損ねてしまった取引先の社長の奥さんが好きな洋菓子のお店が、落合にあると聞きつけ買いに行ったの時に、偶然、神小牧さんと小黒課長を見かけたのだという。
ただ面白いかもなと思っただけだったそうだ。不倫とかそんな関係とは違うのは見ていればすぐにわかった。
「でも、あのうわさの神小牧さんの私生活は謎だらけだからな。会社のみんなにウケるに決まってる。きっと大騒ぎになるってそんなことを想像すると気分がすっきりしたんだ」仕事で失敗したことや、プレッシャーでストレスが溜まっていたんだと尾崎は言った。
けれど、国重のことだけは誤解だといっていた。失敗を擦り付けた覚えはない。いつの間にか国重のせいになっていて、どうしようもなかった。悪いとはずっと思っていたんだと言った。
「どうやって謝罪すればいい」
尾崎は観念したように大輔を見た。
「ありがとうございます。国重はとっても真面目な奴なんです。配属された時、仕事のできる先輩についたんだってとても嬉しそうに話してくれたんです。その先輩って尾崎さんのことですよね? きっと国重はいい仕事をします。一生懸命やります。これからも指導してやってください」大輔は深々と頭をさげた。
「おはようございます」
「おはよう」神小牧さんがいつもより5分も早くフロアに入ってきた。
「望月くん、ちょっといい?」
「え、あ、はい!」慌てて立ち上がって、膝をデスクに思い切りぶつけた
「いって~」それを見て、柳沼さんがひそかに笑っていた。
神小牧さんについて廊下にでて窓のほうにいくと、小黒課長がたって待っていた。
「課長、おはようございます!」慌てて頭をさげる。
「望月くん、ありがとう」
いきなり小黒課長がそういって頭を下げた。と同時に、神小牧さんも深々と頭をさげた。
肩から零れ落ちる黒髪に、一瞬大輔は見とれてぼーっとなったが、すぐに正気を取り戻し、
「え? なんのことですか?」急いで惚けてみたが、すでに遅かった。
「内々で処理してくれたんでしょ? 例の匿名の犯人のこと」
屋上での尾崎とのやりとりの後、約束どおり、大輔から会社に通報することはしなかった。けれど、尾崎は自らセクハラりんりんダイヤルに名乗りでた。
会社としても実名を公表するというのは主旨ではないので、2ヶ月の減俸処分ということで、社内の掲示板には他の懲戒処分と同様に匿名で処分が載せられただけだった。
そのことで、社内の噂もあっという間に立ち消えになった。
小黒課長も神小牧さんも会社側から改めて聞き取りが行われたけれど、特段それによっての異動なども行われないということが確認できて、ほっとしたようだった。
「俺は何にもしてないですよ。匿名の犯人が名乗り出てくれてよかったですね」
大輔の下手なとぼけっぷりに、小黒課長も神小牧さんも笑っていた。
◇
「なんで俺だってわかっちゃったんですかね?」
落合の駅から、大輔は神小牧さんと二人で神小牧さんのアパートへ向って歩いていた。
大輔の背中にはぐっすり眠った翔がいる。
小黒課長がお礼に食事をご馳走させてくれというのを、大輔は固辞しつづけたけれど、神小牧さんが言った一言でご馳走になることにした。
「いいじゃない? お父さんも大輔くんと呑みたいんだと思うな。それに、大輔くんがいてくれると嬉しいわ」
「え!」大輔は驚いて聞き返すと、神小牧さんの顔はみるみる真っ赤になった。嬉しいといわれ大輔は嬉しくとどぎまぎした。きらきらと輝く黒髪からちらっと見えていた耳まで真っ赤にした神小牧さんを見て、あまりの可愛さに胸が苦しくなった。けれど、神小牧さんに
「翔がね! 翔が喜ぶの」慌てて顔の前で手を左右に振って必死に否定されて、大輔はがっくりしたけれど、ありがたく申し出をお受けすることにした。
「なんで俺だってわかったんですか?」もう一度、神小牧さんに同じことを聞いた。
「国重くん」
「あ…」神小牧さんはこれ以上ないというような笑顔で大輔を見つめた。
「国重くんがね、”大輔だと思います。俺と、神小牧さんたちを助けてくれたの”って言ってた」
神小牧さんの話し方が、なんだかいつもと少し違う気がした。
(ん? 酔ってるのか?)
次には挑発的な笑顔で、大輔を見た。
「私だってわかったよ、大輔くんだってすぐに」そう言って、すらりとした人差し指を
大輔の眼の前に突きつけた。
「うわ、俺ってださいっすね。ばれないようにしたつもりが、かっこ悪い」
神小牧さんの指先を見つめてより目になっていた大輔は、神小牧さんの指がなくなった途端、下を向いて俯いた。
「かっこ悪くなんてないよ。そこが大輔くんのい・い・と・こ・ろなんだな」
いつもと違う話し方の神小牧さんにどぎまぎしながら、
(男としてまだまだ甘いってことだな)心の中でつぶやいた。
その時、大輔の耳元に甘い息とまるで鈴のような綺麗な神小牧さんの声が聞こえた。
「そういう大輔くん。わたしは好きだけどな」
「え?!」
大輔が顔をあげると、神小牧さんはまっすぐな黒髪を揺らしながら、軽やかに走って遠ざかっていくところだった。
「…おしっこ…」驚いて大声をあげたせいで、背中の翔が目を覚ました。
「え? おしっこって、ちょっと待て、もう少し待て、えっと、神小牧さぁ~~ん! 翔がおしっこって! それより、さっきなんて言ったんですかぁ?」
翔をおぶって駆け出す大輔の先には、まだまだ手が届きそうにないけれど、それでも少しだけ近づけたような、そんなうわさの神小牧さんが笑顔で走っていた。
了
朝一でメールをチェックするのは、営業のみならずどこの部署でも当たり前の日課だ。取引先や上司からのメールを最優先にチェックすることが尾崎にとってはいつもの作業だが、今朝は違った。メールの差出人の名前に記憶がなかったが、件名の”写真について相談”という文字が気になって、まっさきにこのメールを開いていた。
差出人の名前は経理部の望月という。
(誰だったかな?)
どこかで聞いたことがある名前だけれど、結局尾崎はこの名前の人物を思い出すことができなかった。
メールを開いて本文を読む尾崎の顔がみるみる青褪めていく。
「尾崎、どうした? 顔色悪いぞ?」
返事も出来ず、ただメールの映し出されている画面を見つめていた尾崎のその手は、ガタガタと震えていた。
昼時はにぎやかな屋上も、時間も中途半端ということもあるが、正午ごろから降り出した雨のせいで急に冷え込んだということもあり、今日は誰一人いなかった。天気のよい日はこの屋上からは皇居の緑が鮮やかに見えるが、その緑も今はグレーに翳んでモノクロの写真を見ているようだった。
「おい」尾崎はせいいっぱいの虚勢をはって声をだした。自分では大声で怒鳴ったつもりだったけれど、尾崎の声は、頼りなく細く降っている雨の音にさえかき消されてしまいそうなほど頼りなかった。
「おい」もう一度、尾崎は声を張り上げた。その時、急に背後に人の気配を感じた。
はっとして振り向く。するとすぐ真後ろに大輔が立っていた。
「な、なんだよ」驚いて後ずさる尾崎の声は震えていた。
「尾崎さん、なんだか震えてますね。寒いですか?」大輔は表情を変えずに言った。
「いや…」尾崎は右手を口元にもっていき、思い切り親指の爪を噛んだ。
「は、こんなところに呼び出してどうするつもりだよ」
口から思い切り親指を引き離すと、少し冷静さを取り戻したように尾崎が大輔をにらみつけた。
「あの写真…」大輔がそう言うと、尾崎はまた落ち着きなく目を泳がせ始めた。
「あんな写真がいったいどうした!」尾崎は大輔の胸倉を掴もうと手を伸ばしたが、大輔をすっと後ろに身をひいたので、手は空を掴んでそのままだらりとぶらさがってしまった。
メールに添付されていた写真。それは神小牧さんと課長を写した写真の中に写りこんでいた店のガラス扉の中に写る人影を拡大したものだった。
「顔なんかだれかわからないじゃないか!」そう言いながらも尾崎の額には汗が、この冷え込みにもかかわらずにじんでいた。
「たしかにあの写真じゃわかりませんよ」大輔はそういうと、ipadを開いて尾崎の眼の前に差し出した。
「腕時計…写ってますよね? それを拡大したのがこれです。見覚えあるんじゃないですか?」
その時計は尾崎が自慢気に腕にしていた高級時計だった。
「珍しいタイプなんですよね? 尾崎さんの課の女性が言ってました。尾崎さんがいつも自慢してるって、日本じゃほとんど持ってるやつなんかいないはずだって」
「それは…」尾崎は何かまだ反論しようとしたが、諦めて肩を落とした。
「俺にどうしろっていうんだ。まさかこのこと会社に…」
怯えるような目で大輔を見た。
「俺は尾崎さんとは違います」大輔はきっぱり言った。
「このことは公表はしません。でも、謝罪してほしいんです。神小牧さんと課長に。そして、国重にも」
「な、なんで国重まで?!」公表しないといった時に安心した表情をみせた尾崎の顔が急に気色ばんだ。
「お願いします! 国重にしたこと。ちゃんと上司に話してください。そうじゃないとこれ、公表せざるをえなくなります」
「それは…」尾崎はさっきよりもさらにきつく爪を噛みだした。
屋上の塗れた床をうろうろ歩きながら、どうするか必死に考えているようだった。
観念したように尾崎は話し始めた。
機嫌を損ねてしまった取引先の社長の奥さんが好きな洋菓子のお店が、落合にあると聞きつけ買いに行ったの時に、偶然、神小牧さんと小黒課長を見かけたのだという。
ただ面白いかもなと思っただけだったそうだ。不倫とかそんな関係とは違うのは見ていればすぐにわかった。
「でも、あのうわさの神小牧さんの私生活は謎だらけだからな。会社のみんなにウケるに決まってる。きっと大騒ぎになるってそんなことを想像すると気分がすっきりしたんだ」仕事で失敗したことや、プレッシャーでストレスが溜まっていたんだと尾崎は言った。
けれど、国重のことだけは誤解だといっていた。失敗を擦り付けた覚えはない。いつの間にか国重のせいになっていて、どうしようもなかった。悪いとはずっと思っていたんだと言った。
「どうやって謝罪すればいい」
尾崎は観念したように大輔を見た。
「ありがとうございます。国重はとっても真面目な奴なんです。配属された時、仕事のできる先輩についたんだってとても嬉しそうに話してくれたんです。その先輩って尾崎さんのことですよね? きっと国重はいい仕事をします。一生懸命やります。これからも指導してやってください」大輔は深々と頭をさげた。
「おはようございます」
「おはよう」神小牧さんがいつもより5分も早くフロアに入ってきた。
「望月くん、ちょっといい?」
「え、あ、はい!」慌てて立ち上がって、膝をデスクに思い切りぶつけた
「いって~」それを見て、柳沼さんがひそかに笑っていた。
神小牧さんについて廊下にでて窓のほうにいくと、小黒課長がたって待っていた。
「課長、おはようございます!」慌てて頭をさげる。
「望月くん、ありがとう」
いきなり小黒課長がそういって頭を下げた。と同時に、神小牧さんも深々と頭をさげた。
肩から零れ落ちる黒髪に、一瞬大輔は見とれてぼーっとなったが、すぐに正気を取り戻し、
「え? なんのことですか?」急いで惚けてみたが、すでに遅かった。
「内々で処理してくれたんでしょ? 例の匿名の犯人のこと」
屋上での尾崎とのやりとりの後、約束どおり、大輔から会社に通報することはしなかった。けれど、尾崎は自らセクハラりんりんダイヤルに名乗りでた。
会社としても実名を公表するというのは主旨ではないので、2ヶ月の減俸処分ということで、社内の掲示板には他の懲戒処分と同様に匿名で処分が載せられただけだった。
そのことで、社内の噂もあっという間に立ち消えになった。
小黒課長も神小牧さんも会社側から改めて聞き取りが行われたけれど、特段それによっての異動なども行われないということが確認できて、ほっとしたようだった。
「俺は何にもしてないですよ。匿名の犯人が名乗り出てくれてよかったですね」
大輔の下手なとぼけっぷりに、小黒課長も神小牧さんも笑っていた。
◇
「なんで俺だってわかっちゃったんですかね?」
落合の駅から、大輔は神小牧さんと二人で神小牧さんのアパートへ向って歩いていた。
大輔の背中にはぐっすり眠った翔がいる。
小黒課長がお礼に食事をご馳走させてくれというのを、大輔は固辞しつづけたけれど、神小牧さんが言った一言でご馳走になることにした。
「いいじゃない? お父さんも大輔くんと呑みたいんだと思うな。それに、大輔くんがいてくれると嬉しいわ」
「え!」大輔は驚いて聞き返すと、神小牧さんの顔はみるみる真っ赤になった。嬉しいといわれ大輔は嬉しくとどぎまぎした。きらきらと輝く黒髪からちらっと見えていた耳まで真っ赤にした神小牧さんを見て、あまりの可愛さに胸が苦しくなった。けれど、神小牧さんに
「翔がね! 翔が喜ぶの」慌てて顔の前で手を左右に振って必死に否定されて、大輔はがっくりしたけれど、ありがたく申し出をお受けすることにした。
「なんで俺だってわかったんですか?」もう一度、神小牧さんに同じことを聞いた。
「国重くん」
「あ…」神小牧さんはこれ以上ないというような笑顔で大輔を見つめた。
「国重くんがね、”大輔だと思います。俺と、神小牧さんたちを助けてくれたの”って言ってた」
神小牧さんの話し方が、なんだかいつもと少し違う気がした。
(ん? 酔ってるのか?)
次には挑発的な笑顔で、大輔を見た。
「私だってわかったよ、大輔くんだってすぐに」そう言って、すらりとした人差し指を
大輔の眼の前に突きつけた。
「うわ、俺ってださいっすね。ばれないようにしたつもりが、かっこ悪い」
神小牧さんの指先を見つめてより目になっていた大輔は、神小牧さんの指がなくなった途端、下を向いて俯いた。
「かっこ悪くなんてないよ。そこが大輔くんのい・い・と・こ・ろなんだな」
いつもと違う話し方の神小牧さんにどぎまぎしながら、
(男としてまだまだ甘いってことだな)心の中でつぶやいた。
その時、大輔の耳元に甘い息とまるで鈴のような綺麗な神小牧さんの声が聞こえた。
「そういう大輔くん。わたしは好きだけどな」
「え?!」
大輔が顔をあげると、神小牧さんはまっすぐな黒髪を揺らしながら、軽やかに走って遠ざかっていくところだった。
「…おしっこ…」驚いて大声をあげたせいで、背中の翔が目を覚ました。
「え? おしっこって、ちょっと待て、もう少し待て、えっと、神小牧さぁ~~ん! 翔がおしっこって! それより、さっきなんて言ったんですかぁ?」
翔をおぶって駆け出す大輔の先には、まだまだ手が届きそうにないけれど、それでも少しだけ近づけたような、そんなうわさの神小牧さんが笑顔で走っていた。
了