君に、最後の長いためいきを
『なあ』

『ん?』

『お前さ、大学どこ行くの』

『県外』

『へえ。じゃ、とうとう俺ら離れるのか』

『うん。そだね』

『ま、お互い頑張ろうぜーってことで』

『……うん』

『……なんだよ』

『ん? んー……寂しくなるなーって思って』

『寂しくなんかねえよ。別にまた会えるだろ』

『……うん。そうだね。そうだよね。…………あの、さ?』

『うん?』

『ううん。……やっぱり、なんでもない』


本当はずっと、あいつに連なるものは全部全部、好きだった。


大事に心の奥にしまい込んでいた。


寂しくないなんて本気で思っていた当時を振り返る度に、思う。


もっとやりようがあったんじゃないかって。


もっと言いようがあったんじゃないかって。


もっと、もっと、素直になれたら、良かったんじゃないかって。


あのとき俺に恋心の自覚があったなら、 お前が隣にいる今も、あったんじゃないのかって。


あいつと他の人と、どこか違う感覚はあった。


あいつのことだけ無性に心に引っかかった。


心に引っかかって、俺を乱して、変な後味とおかしな動悸をもたらす感情に、俺は混乱し、惑い、切なくなった。


恋心だなんて――俺はあいつのことが好きだなんて、はじめ、思いもしなかったから。


それをいったいどう扱えばいいのか、どこに持っていけばいいのか、誰にも相談できなくて、どうしたらいいのか幼い俺には分からなかったんだ。
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