黒桜 〜あたしと5人の黒狼〜


すぐに、立ち去るんだろう。


そう思った。



だが、この女は俺の予想を裏切った。


ペチンッ


「…!?」



頬に布越しで伝わる、小せぇ手の温もり。


まっすぐに俺を見つめる、綺麗な瞳。



女は、俺の血が出た頬を、少し強めにハンカチで抑えていた。


…分かんねぇ。




なんで…?




「…ばい菌…入っちゃうから」




ポカンとアホ面をしていた俺の手にハンカチを抑えさせ、女は立ち上がった。


…行っちまう!


「…あっ、おい!!」



歩き出そうとしていた女を、用も無く止めてしまった。



「…名前は」



「……ナナキです」




女は、ニコッと愛想のいい笑顔を向けて、歩いて行った。




< 96 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop