黒桜 〜あたしと5人の黒狼〜
すぐに、立ち去るんだろう。
そう思った。
だが、この女は俺の予想を裏切った。
ペチンッ
「…!?」
頬に布越しで伝わる、小せぇ手の温もり。
まっすぐに俺を見つめる、綺麗な瞳。
女は、俺の血が出た頬を、少し強めにハンカチで抑えていた。
…分かんねぇ。
なんで…?
「…ばい菌…入っちゃうから」
ポカンとアホ面をしていた俺の手にハンカチを抑えさせ、女は立ち上がった。
…行っちまう!
「…あっ、おい!!」
歩き出そうとしていた女を、用も無く止めてしまった。
「…名前は」
「……ナナキです」
女は、ニコッと愛想のいい笑顔を向けて、歩いて行った。