夜明けのエトセトラ
「……へぇ?」

 友達なら……か。

 ボンヤリしていると、佐伯は割り箸で拍子を取りながら、微かに唇の端を上げる。

「お前、結構人見知りするだろ?」

 社交的でないのは認めよう。

「だから、余りよく知らない野郎相手だと無口になりやすい」

 まぁ、そうだね。

「相手もお前をよく知らないから、見た感じでイメージを作る」

「イメージ?」

 口を挟むと、軽く頷かれた。

「だから、クールビューティーなんて言われる」

「いや、それは知らないから」

「本人目の前にして、そんな事を言うヤツがいるわけないだろうが」

 それもそうだ。

「付き合い易いのは、単に楽で楽しいって事だと思う」

「そう?」

「だから……だと思う。だが、たまにそれが“居心地がいい”って勘違いして、恋愛感情だと思うヤツもいるな」

「勘違いなのか?」

「楽で居心地いいなんて関係は、恋愛じゃねぇだろう」

 そう……なのかな?

 考えていると、佐伯はすでに炒飯を食べ終わっていて、コップの水を飲む。

「……あのな」

「ん?」

「そんなのは、長年付き合って、すったもんだした後、お互いをよく解り合った上で“居心地いい場所を作った”関係とは違うだろ」

「……うーん?」

「惚れるって感情が、楽だと思うか?」

 そんな事はよく解らない。

 ああ、いいな、と、想った相手ならいたし……楽しいな、と思った事ならあるけど。

「俺に言わせたら初期でそうなる関係は、恋愛じゃなくて、単なる“馴れ合い”だと思う」

 そう言われると、どこかで納得出来てしまう自分がいる。

 ……まいったな。何が参ったって……。

 こんなに佐伯が、熱く“恋愛”を語るとは思っても見なかった。

「だいたいな、恋愛の最初なんてもんは上手く行かなくて面倒なもんだろうが」

 面倒だと思うなら、しなきゃいいじゃないか。

「しなきゃいいんだろうが、恋愛なんて理性で考えるもんじゃないからな」

 ふぅん?

「……って、お前さ」

「ん?」

「よくこの話題で、ラーメン食ってられんな?」
< 10 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop