夜明けのエトセトラ
 君の話を聞きながら、とても美味しい塩ラーメンでしたよ。

 きちんと手を合わせると、苦笑した佐伯と目が合った。

「何?」

「いや? 善くも悪くも、お前らしいと思ってな」

「うーん……」

 多分、そうなのかも知れない。

「だけど、よく解んないよ」

「何が」

「あたしは自分の事なんて、よく解んないんだよね」

「あ?」

「あたしらしい……って、どんな事なのかね?」

 根本的な質問をぶつけてみたら、

「さぁな」

 質素な答えが返って来た。

「めちゃくちゃ無責任だな」

「俺は、俺の主観でしか考えられないからな」

 佐伯はそう言って、持っていたコップをテーブルに置く。

「でもそれでいいんじゃねぇ?」

「ん?」

「そんな事は他人がどうこう言う事じゃないと思うし、解ってたら面白くないだろうし」

 そう言って、佐伯はテーブルに置いてあった伝票を片手に立った。

「え。あ、お金」

 慌ててバックに手を突っ込むあたしに、

「コーヒーの礼だ。気にすんな」

 と、笑う佐伯。


 ……こういうとこは律義なんだ。


 そしてビル街の片隅にある古ぼけたラーメン屋から出て来ると、朝日にクッキリと写る二つの影を眺める。

 少しだけ新鮮な空気を吸い込んで、それから佐伯を見上げた。

「ご馳走さま」

「お粗末様」

 互いに顔を見合わせて、何となく照れ臭くなって笑ってみると、

「蘭子」

 そう呼ばれて首を傾げる。

「何?」

「俺は、普段のコーヒーと徹夜の時に淹れてくるコーヒーが、ちゃんと俺の好み通り変えて出せるお前は凄いと思うぞ?」

「ん?」

「普段は大雑把な癖に、そういう気配りが出来るのは、凄いと思う」

「別に、何度もやってりゃ覚えるし。淹れたからには美味しく飲んで欲しいし、当たり前じゃない?」

「そういう所を“当たり前”だと、それこそお前は当たり前に思うだろうが……」

「うん?」

 佐伯の手が伸びて来て、あたしの髪をくしゃりと掻き混ぜる。

「そんなとこも好きだ」
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