夜明けのエトセトラ
「馬鹿じゃないのぉ?」

 冷たい視線で東雲君を見ると、彼はあきらかに焦りながらもムッとした。

「ひど……っ!」

「ひでぇのはどこのどいつだよ」

 佐伯の言葉を最後に、しばらくキーボードを打つ音だけがフロアに響く。

 しかし、室長とウワサになっているとは知らなかった。うちの部署の室長なら38歳。確か、二男一女のパパサンなはず。

 まぁ、身長も高いし、顔もまぁまぁイケるね。キビキビと仕事をする姿に、憧れ……ってか、妄想を抱く乙女は多いかも知れない。

 ……つーかあたし、乙女ってガラじゃねーし?

 今更、乙女チックになれって言われても困るんだけど?

 ちょっと想像してみて……。

「……あはははは」

 あたしと室長か。キモチ悪いったらありゃしない。

「どうした突然」

 眉をしかめた佐伯に、首を振ってみる。

「いやぁ……室長に抱かれてんの想像してウケた」

 東雲くんが隣でコーヒーを吹き出した。

「おー……大丈夫?」

 咳込んでいる東雲くんを、可哀相な目で見て苦笑。

「随分と過剰反応だな、東雲くん」

「いや、あの……っ」

「まぁ、新婚だもんな~。それなのに毎日残業で欲求不満か?」

 愕然とする東雲くんを眺めたままでいたら、佐伯からボールペンが飛んで来た。

「……った」

「女のくせに欲求不満とかぬかすな、タコが!」

「女だからって、欲求がないワケじゃないけどな? それなりにヤリたくなる時だってあ……」

 今度は定規が飛んで来る。それを綺麗に指で挟んで受け止めたら、佐伯に悔しそうな顔をされた。

「受け止めてんじゃねぇよ、馬鹿」

「受け止めなかったら、角が当たるところだったろうがボケ」

「だからって指で挟むんじゃねぇ」

「見事だろう?」

 鼻で笑ったら、佐伯は目を細める。

「まぁ……なんだ」

「ん?」

「今度、ヤリたくなったら俺に知らせろ」

「…………」

 持っていた定規を、ナイフ投げの要領で佐伯に向かって投げつけた。

「……あぶっ!」

 慌てた佐伯がウケる。
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