夜明けのエトセトラ
「笑い事じゃねぇぞ、お前っ! 今、避けなかったら、目に直撃してただろうが!」

「狙ったんだ、当たり前だろう」

「当たり前とかぬかすなっ!」

「ムードもない誘い方するからだろうが」

「お前相手にムードもあったもんかよ!」

「うるさいな、欲求不満男」

「健全な男だろうが!」

「あ~……二人とも、ロスタイムです」

 東雲くんの言葉に、お互い視線を反らせてモニターを見る。

 ……困った事に、昔から佐伯とはこんな感じでぶつかるのが困る。

 先輩の癖に、先輩らしい事をされた事がないしっ!

 まぁ、あたしも後輩らしくないけどな!

「……ふぅ」

 どうでもいいことかもしれない。

 煙草を灰皿に押し付けて消し、凝った首をコキコキ動かしていたら、

「柏木お前なぁ」

「おうよ」

「……コーヒー淹れてこい」

 それが人にモノを頼む時の態度か。

「あ。柏木さん、僕もお願いします」

 ……東雲くんまで便乗する?

「……ちっ」

 わざと舌打ちしてデスクの引き出しを開けながら、佐伯と東雲くんをそれぞれ睨みつける。

「面倒臭い」

「そう言うなよ。今更、自販機の紙コップじゃ、目も覚めない」

「緑茶の方が目が覚める」

「俺が緑茶ってガラかよ」

「キャラで飲むわけじゃなかろうよ」

 コーヒーセットを用意して席を立つと、佐伯がにこやかに微笑んだから……なんかむかつく。
 
「今度なんかおごってよ?」

「任せとけ。ラーメンくらいはおごってやる」

「あ。ラーメンなら、うまいとこが近所に……」

 そんな会話を聞きながら、給湯室に向かった。

 今時間になると、非常灯が微かにつくだけの廊下。シンと静まり返る薄暗さは、どこか別次元の場所に見える。

 ……実は、こんな薄暗い会社が好きだ。

 そんな事を言うと、だいたいの人には珍しげにされるけど。どちらかと言うと、私は静寂を好む傾向にあるらしい。

 ……一人でコトコトとプログラミングしてると楽しいし。

 モニターがコマンドで埋まっていると、とてつもなく楽しいし!
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