夜明けのエトセトラ
ピー!! と鳴ったヤカンに、ハッと目を見開いた。

「お湯が沸いたから!」

 シンクに置かれた腕を退かし、コンロの火を止める。

「……なんだ、ソレ」

「ヤカン!」

 堂々とヤカンを指さすと、呆れた視線が返ってくる。

「んなこたぁ解ってる」

 佐伯は深い深い溜め息をついて、それからドアの方に向かい……。

「そんじゃ、頑張るか~」

 言葉の割に、気が抜けた様な声を残して給湯室を後にした。


 なんか……

 びっくりした。

 佐伯と仕事をして、何年も経つけれどさぁ? ああいう返しをされたのは、初めてじゃないか?

 ……相当疲れてるのかね? ……そう、理解していた方が無難だな。

 どこと無く、無理矢理にも納得しようとしてる自分には苦笑だけど……。

 とにかく、コーヒーを三人分淹れて、何事もなかった様に戻る。

「ありがとうございます」

 にこやかな東雲くんにホッとして、佐伯の方を見る。

「サンキュー」

 モニターを見たまま呟くヤツに、ちょっとイラッとした。

 ……こっち向いて礼をしろ。

 だけど、それからは無駄話もなく、淡々とキーボードを打つ音だけが響き……窓の外が明るくなって来た頃。

「俺は終わったけど」

 佐伯の言葉に、最後のコマンドを打ちながら頷く。

「こっちも……これでオッケー」

「僕はまだですぅ~」

「おせぇよ」

 ボールペンが東雲くんに当たって、世にも情けない顔を披露する。

 ……東雲くんて、いじられキャラだ。思った瞬間にニヘラッと笑っていた。

「何だか可愛いのぅ、東雲くん」

「は!?」

 目を丸くした東雲くんと、眉をしかめた佐伯が見える。

「あー……。構うな。疲れが溜まると妙な事を言うから」

「そんなに妙かな?」

 首を傾げると、苦笑が返って来た。

「妙だな。という訳で、夏樹は逃げていいぞ。奥さんに謝っとけ」

 佐伯に追い払われて、東雲くんは帰って行った。
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