夜明けのエトセトラ
 そして、佐伯はそのまま東雲くんの席に着いて、残りの仕事を引き継ぐ。

「東雲君、帰してよかったの?」

「後はテストだけだからな」

「ミスってたら?」

「お前は独り身だろ?」

 その通りだけどね。

「んじゃ、カップ洗って……」

 来よう、と東雲くんの席からカップを持ち上げようとしたら。

「……ま、落ち着け」

 パシッと手を掴まれて、握られる。

「…………」

 何をしたいんだ?

 てか、にぎにぎしないで欲しい。

 つか、手に汗かかない男なんだな。なんて……色々と考えながら黙っていたら、佐伯は器用に片手でキーボードを打ち終わり、そのままプログラムテストを開始した。

「……佐伯?」

「ん?」

「何故、手を繋がなければならない?」

「嫌か」

 嫌か? と聞かれれば嫌だし。嫌なんだろうか? と考えるとそうでもない。

 そもそも、今のは問いだろうか?

 だから、そのままにしていたら……。

「……ふっ」

 小さく笑われた。

「何……」

 楽しそうな視線と、ちらっとだけ目が合う。

「案外可愛いな。お前」

 何!?

「顔、赤いぞ?」

「か……」

 赤くなってても言わないのが、大人の男だと思うが。それとなく、見て見ぬフリをするのが、いい男なんじゃないか?

 とは言え、性格が悪いのが佐伯なのかもしれない。

 少し悪戯を思い付いた様な表情で、微かな音をさせながら椅子を回転させ、足を組んでから頬杖をつく。

 もちろん、手は握られたままに……

 それから、やたら爽やかに微笑まれた。

「すべすべだな?」

「それは聞く事なんだろうか?」

 どちらかと言うと、スケベオヤジの言い分に聞こえるが。

「褒める事だろう?」

「え……」

 今のは褒められたのか? 聞かれたんじゃなく? 今のが褒め言葉?

「つーか、お前」

「ん?」

「口説いてるんだから、少しは反応しろ」

 いや……

 これは無理だろう。
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