夜明けのエトセトラ
 曲がりなりにも女なら、今のが〝口説き文句〟だとは思わないと思う。

 ただ、佐伯のこれが〝口説いてる〟と言うのなら……。

「佐伯って、救い様が無い程に馬鹿なんだな」

「お前に言われたかぁねぇよ」

 笑いながら言われても、全く説得力に欠ける。

「ま。いつもの調子に戻ったじゃないか」

「は?」

「赤面してる蘭子なんて、どう扱えばいいか解らんからな」

「だから、名前で呼ぶなって言ってるだろうが」

 呆れて手を引き抜いたら、案外あっさりと離してくれた……ので、カップを持って立ち上がる。

「じゃ、洗いもんしてくる」

「俺のもな」

 すでにモニターに向き直った佐伯が、視線も寄越さずに片手を上げる。

 ……いつか、本気で殴る日が来るんじゃなかろうか? そんな懸念を抱きつつ、3つのカップを手に給湯室に向かった。

 それにしても、今日の残業は奇妙な感じだった。

 あたしと室長……誰となのかは知らないけれど、噂になってる事実やら。

 怒った佐伯が、給湯室で迫ってきたり……だとか。

 からかわれて、淡々と口説かれ(?)たり…とか。

 まぁ。そんな事を考えたって、男の考える事が解れば、世の中のカップルは苦労しないわな。

 一応、あたしも女だし。

 男性だ女性だと言っても、どの人も性格が違うし、一緒の人なんていない。

 6人の兄貴たちですら、性格は様々で……。

 家族内ですら違うのに、世の中の男性の考え方なんて理解しようがない。

 ……今まで付き合って来た男の中で、相手の事を理解していた、と断言出来る人すらいない。

 それもなかなか悲しい出来事だけれど。

 理解しようとして出来ないのか、理解するつもりがないのか。

 どちらなんだろう?

 そう考えて、苦笑した。

 多分、するつもりがない。

 しようとして居れば……多分、別れの理由くらいは理解出来たと思う。

 何となく仲が良いから始まって。突然に別れを告げられて。それでバイバイ。
< 8 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop