小悪魔な彼にこっそり狙われています



「……ん……」



唇と唇の隙間から吐息とともに声が漏れると、来栖くんは唇を離し間近で私の顔を見つめた。



彼の茶色い瞳には、甘いキスに微睡む、少し気の抜けた自分の顔が写り込む。

そんな私を見つめるその表情は、熱く、その熱で溶けてしまいそうな気がした。



ところが、来栖くんは両手で私の肩を掴むと体を離す。



「来栖くん……?」

「……これ以上触れるとまた止まらなくなるんで、離れます」



止まらなく、なる……。

それは彼なりのセーブなのだろう。顔を背け、キッチンへ向かおうとする横顔にちらりと見えたその頬は少し赤らんでおり、彼の熱をいっそう感じる。



「雨上がったら送りますんで、それまでコーヒーでも飲んで……」



待って、離れないで、もっと触れて。

そう言葉に表すより先に、彼のスーツの裾をぎゅっと掴んだ。小さく引っ張る感覚に彼は足を止めると、不思議そうに私を見る。



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