小悪魔な彼にこっそり狙われています
「実は親会社の札幌支社から『秘書課で働ける人間がひとりほしい』って話があってさ、まぁつまりは転勤になるんだけど、それを来栖くんに頼んだんだよね」
「え……?」
「彼自身にはもう結構前に話したんだけど、返事がまだ貰えてなくてね。けどあんまり本人にせっつくのもなーと思って、井上ちゃんなら仲良いみたいだからなにか聞いてるんじゃないかなと」
……転、勤?
なにそれ、そんなの知らない。なにも聞いてない。
突然の話にすぐに理解が出来ず、意識が遠退きそうになるのをぐっと堪えて声を絞り出す。
「……別に。仲良くもないですし、なにも聞いてません」
ひきつる顔を必死に繕うと、桐生社長は悩ましげに頷いた。
「そっか、ならやっぱ本人に直接聞くしかないかなぁ」
そして「ごめんね、ありがと」と言って、颯爽とした足取りでその場をあとにした。