小悪魔な彼にこっそり狙われています
転勤なんて、来栖くんそんなことひと言も言ってなかった。
……あぁ、だから?
もしかして、転勤前の思い出作り?
信じたいと思っていたのに、小さな疑惑から不安は一気に心を覆う。
どうせここからいなくなるから、離れるから。だから私に声をかけたのかな。
『好き』の言葉は嘘?
聞かせてくれた好きのきっかけも、言い訳?
彼氏と別れた年上女なら、簡単にいけるとでも思った?
「井上さん?」
呼ばれた名前に、ふと我にかえると目の前には不思議そうな顔でこちらを見る来栖くんがいた。
昨日ぶりに合わせる顔に、先ほどまでの自分なら頬を赤らめ恥ずかしさでいっぱいになってしまうだろう。
けれど、今は顔を強張らせるしかできない。
「お疲れ様です。どうしたんですか、こんなところでボーッとして」
「あ……えっと、」
先ほど桐生社長から聞いた話を、彼に問いかけようか一瞬悩み躊躇う。
けれど、躊躇いを飲み込み、問うことを選んだ。