小悪魔な彼にこっそり狙われています
「今、桐生社長来てたよ。……来栖くんのこと、聞かれた」
「俺のこと……?」
とぼけているのか、来栖くんは首を傾げて聞き返す。
怖い。
きっと、ううん、絶対。追及すれば、この夢は終わってしまう。
けど、今を越えても後に終わる。
必ず終わりが、やってきてしまうのなら。
「転勤の話、聞いたよ。もう、なんでそんな大事なこと黙ってるの」
震える声をこらえて、精いっぱい平然を装った。
「いきなり聞いてびっくりしたよ。けど、納得した。だからいきなり、私なんか口説き始めたわけだ」
「え……?」
「彼氏と別れて男っ気ないアラサー女はチョロかったでしょ。私もまんまと勘違いしちゃったよ」
『勘違い』
自分が発した言葉が胸に深く刺さり、まずい、と思うと同時に視界はにじむ。
そしてポロッとこぼれた涙は、頬を伝い床に落ちた。