小悪魔な彼にこっそり狙われています



「待ってください、井上さ……」



慰めようとでもしたのだろうか、頬に触れようと伸ばされた彼の手を振り払い拒む。



「……触らないで」



そしてそれだけを言うと、私は逃げ出すようにその場を駆け出した。



触れないで、言わないで。

嘘も言い訳も、謝罪も、なにも聞きたくないよ。知りたくないよ。



からかわれていた、だけだった。

なにも知らずに恋に落ちた自分が、滑稽で笑えてくる。



「……バカみたい」



自分を嘲笑うように言いながら、止まらない涙。



バカ、みたいだ。

傷ついても、悲しくても、消えない。好きだというこの気持ち。








< 109 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop