小悪魔な彼にこっそり狙われています
「待ってください、井上さ……」
慰めようとでもしたのだろうか、頬に触れようと伸ばされた彼の手を振り払い拒む。
「……触らないで」
そしてそれだけを言うと、私は逃げ出すようにその場を駆け出した。
触れないで、言わないで。
嘘も言い訳も、謝罪も、なにも聞きたくないよ。知りたくないよ。
からかわれていた、だけだった。
なにも知らずに恋に落ちた自分が、滑稽で笑えてくる。
「……バカみたい」
自分を嘲笑うように言いながら、止まらない涙。
バカ、みたいだ。
傷ついても、悲しくても、消えない。好きだというこの気持ち。