小悪魔な彼にこっそり狙われています
建物から出ると、細い路地裏に出た。
人の流れに導かれるように大通りの方へと向かうと、そこは会社のある品川から2駅ほど離れた、五反田の駅近くであることに気づいた。
7月頭の暑さがじりじりと増す街で、なんてことない顔で駅前の人混みに紛れて歩くと、今日もこの街を行き交う社会人のひとりになる。
つい先ほどまでラブホテルで酔った勢いで男と寝ていたなんて、誰も思わないだろう。……というか、思わないでほしい。
誰にもバレずに、出来ることならなかったことにしたい。
いや、だって……ありえないでしょ。
同じ会社の相手、しかも後輩と、酔った勢いでそうなるなんて。
先ほど私と同じベッドにいた彼……来栖晶という男は、私の隣の課・秘書課で働く後輩。
ちなみに私より3歳下の26歳だ。
茶色い髪を無造作に整えた、背の高い彼。
あまり親しいわけではないけれど、少したれ目がちなその顔がいつも眠たそうというか無気力そうで、そんな日頃の彼から感じる印象は、今時の『草食系男子』。
見た目からのイメージのまま、中身もぼんやりとした男で、おまけに無口で無愛想。
なにを考えているかがわからないと私は思うけれど、見た目は整っているものだから、モテる。
オフィスの女の子たちからすれば『そんなところもミステリアスで素敵』なのだそう。