小悪魔な彼にこっそり狙われています
「おはよう」
声をかけると、既に出勤していた社員たちは町田さんのデスクに集まり、なにやら渋い顔をしている。
「ん?どうかしたの?」
「えっ!?あー……えーと、それが」
当然不思議に思い問いかけると、ひとりの女性社員は『まずい』といった顔をしてしどろもどろになる。
その表情は他の社員たちも同じで、皆してどうごまかそうか悩み、冷や汗をかき、観念したように口を開いた。
「明日の会議で使う資料、町田さんに頼んでおいたんですけど……忘れてたみたいで」
昨日町田さんを庇った男性社員は、『これは庇いきれない』とでも言うかのように苦い顔で現状を説明する。
その言葉に皆が囲む真ん中を見れば、町田さんが絶望を表すかのように椅子に座り、手で顔を覆いがっくりと俯いていた。
出社してきて誰かに言われてから、資料を忘れていることに気づいたのだろう。その手の下ではまた泣いてしまっているのが想像つく。
「……明日会議で使う資料って、確かかなり量あったよね?どこまで終わってるの?」
「それが……まだ全く手をつけてなかったそうで」
「は、はぁ!?全く!?」
驚きからつい出た大きな声に、町田さんはビクッと肩を震わせ、皆も『まずい、きた』と顔を青くした。