小悪魔な彼にこっそり狙われています
けど、なんでそんな来栖くんと、私が……?
うっすらとした記憶の中では、確か、昨日彼とは飲み会で少し話をして、段々酔っ払った私は彼に絡んで……。
『井上さん、大丈夫ですか?俺、送ります』
お店を出たところで動けなくなった私に、彼がそう手を差し伸べてくれた。そこまでの記憶しかない。
って、一番大事な部分の記憶がないなんて……!!
お酒に溺れた自分の愚かさに頭を抱え、どうしようどうしようと悩み続ける。
けれど散々悩んだ末に、頭の中ではプツンッとなにかが吹っ切れた音がした。
……夢かもしれない。
そう、そうだ。夢。これは夢だ。
日頃男性に縁がないそうで、こんな夢を見てしまったんだ。そうに決まっている。
悟りを開くかのようにそう思うと、一気に心穏やかになっていく。
よし、じゃあこれは夢だということでこの話は終わり!
今日も仕事、頑張ろう。
……なんて、現実逃避でしかないと分かっていても、なかったことにするくらいしかできない。
そんな自分にため息をつき、足は電車に乗り込んだ。