小悪魔な彼にこっそり狙われています



「……ふぅ、」



言葉、こらえられた。

皆も町田さんも、安心した顔をしていたし、厳しい言葉ばかりを使わなくても大丈夫なのかもしれない、と思えた。

この変化が彼のおかげだと思うと、少し悔しい気もするけれど。



「効いたみたいですね、おまじない」



その声に振り向くと、そこにはちょうど秘書課のオフィスから出てきたところの来栖くんがいた。

また壁の向こうの声を聞いていたのだろう。相変わらず眠そうな目で彼は言う。



「……別に。キザだなと思ったら笑えただけ」

「そうですか」



素直に『あなたのおかげ』と言えないところがまた自分だ。

けれど、言葉に表さずともそのひねくれた言葉の真意を読み取るかのように、来栖くんは小さく笑った。



きっと彼のおまじないは、いつでもどこでも必ず効果を発するわけじゃない。

怒りに任せて厳しいことを言ってしまうことが、これからだって何度もあるだろう。

だけど、少しずつ変わっていけたら。そう思えるきっかけをくれたのは、彼のひと言だから。



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