小悪魔な彼にこっそり狙われています
「……けどありがとう。あと、昨日はごめんなさい」
つぶやいた、『ありがとう』と『ごめんなさい』。
その言葉に、来栖くんは少し驚いて、ふっと笑って距離を詰める。
そしてひと気のない廊下の真ん中で、私の額に小さくキスをした。
「お礼とお詫びは、これで貰います」
突然のことに驚き固まるものの、額に触れた薄い感触からこみ上げる実感に、かああと顔が熱くなる。
「っ〜……こらー!!」
怒って声をあげた私に、彼は「お疲れ様です」と笑みを浮かべたままその場を歩き出した。
本当、よくわからない。読めない人。
だけど、この心を少しずつ変えてしまう彼に翻弄される自分が、嫌いじゃないかもしれない。
なんて、そう思えた。