小悪魔な彼にこっそり狙われています




「井上、最近怒る回数減ったよなぁ」



ある日の午後。

いつもいる総務課のオフィスがあるフロアの1階上、12階にある会議室で書類をまとめていた私に、その作業を手伝っていた同じ部署の先輩男性社員は思い出したように言った。



そのひと言に、私は紙を数枚ホチキスで留めながら首を傾げる。



「そう、ですか?」

「そうそう。前まではすぐ怒って、きつい言い方してオフィスの空気ピリピリしてたじゃん。お前後輩だけど上司だから、俺は敢えてなにも口出ししなかったけどさぁ」



先輩は言いながら、私がまとめた書類を受け取りパサッと積み上げる。



「それでも怒るときは怒るけどさ、言い方も前よりマシになったよ」

「……私、もともとそんなひどい言い方してました?」

「まぁな。『なんで出来ないの?』って冷たい目して……あんなキツい女絶対彼女にしたくないって俺は思ったね」



そして私のモノマネのつもりなのか、大げさなくらい冷たい言い方をしてみせてから、けらけらと笑い声をあげた。


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