小悪魔な彼にこっそり狙われています
……そこまで言わなくてもいいと思う。
けど、そっか。周りから見て多少の変化はあるわけだ。
怒る回数が減って、言い方も多少マシになった。
きっとその変化の理由は……来栖くん、なんだろうけど。素直に認めたくはない自分もいて。
「……もしかして、井上さぁ」
なにかに気づいたような口調をしながら、先輩はニヤッとした笑みを浮かべて私を見る。
その表情から、心が読まれたような気がしてギクッと嫌な予感がした。
「な、なんですか……」
「お前、怒った時に自分の眉間に深〜いシワができてることにやっと気付いたんだろ」
「は?」
ところが、先輩から言われたひと言は自分の心の中とは全く違うひと言で……。
思わぬその言葉に、言われた直後ながらも眉間にシワが寄るのを感じた。
「あ、ほらそれ。あんまりシワ寄せてばっかりいると跡になるぞー?もう若くないんだから気をつけろよ」
「っ……余計なお世話です!!」
怒る回数が減った、と言われたばかりにも関わらず、私はイライラと声を荒げ、まとめた書類の束を手に会議室を出る。
バン!と力強くドアを閉めた後も、部屋の中からは先輩の笑い声が聞こえて、それがまた腹立たしく、ずかずかと廊下を歩き出した。