小悪魔な彼にこっそり狙われています
大崎にある自宅マンションに一度帰って、とりあえず服だけでも着替えると、急ぎ足で会社へ向かった。
黒いスキニーに白い半袖のカットソーと、どうせいつも大差ない服装だから、同じ服だろうと気付かれないとも思うけど、念のためだ。
途中会社のトイレに立ち寄り、黒い髪をうしろでひとつにキュッと束ねると、気が強そうな二重の目がいっそう引き立つ。
そんな自分の顔をパン!と両手で叩き気持ちを切り替えると、『総務課』と書かれたオフィスへ向かった。
いつものように人が行き交うオフィスで、中央奥に置かれたデスクに着き、仕事を始めたと同時に私はあれこれと書類を手に声を発する。
「林さん、営業部から報告書とってきて。あと秘書課から昨日までの領収書の類も集めてきて」
「あっ、はい!」
「今月の社会保険の手続きして、労災申請もあったし……あっ!コピー機の修理代見積もり、誰が持ってる!?」
慌ただしい声に、オフィス内の社員たちも忙しなく動いて答えた。