小悪魔な彼にこっそり狙われています
「最近ちょっと雰囲気優しくなったと思ったけど、やっぱり相変わらずですね」
「えっ……気づいてたの?」
「もちろん。ていうか、うちの秘書課の人も皆言ってますよ。『最近怒鳴り声も減ったし、少し話しかけやすくなった』って」
秘書課の人たちにまで言われていたなんて……。
少し恥ずかしくて、包丁を手にした私は彼から顔を背けたままだ。
「おまじない、効いてるみたいですね」
「別に、来栖くんのおかげってわけじゃないから!勘違いしないでよね」
「少しくらいは俺のおかげもあると思うんですけど」
自分で言うか、と思うものの、まぁそう言われればそうだと思わなくもない。
「はいはい。じゃあ怪我のお詫びも含めて今度ごはんでもおごるから。それでいいでしょ?」
恩を受けたままでいるのもいやだし、今回のケガも自分のせいだし。うん、だから。それだけ。
そう自分の心の中で念押ししながら、他意はないと言い聞かせる。
「あ、なら別にごはんとかはいらないんで、デートしてください」
ところが背後の彼から言われたその言葉に、思わず振り向き聞き返す。