小悪魔な彼にこっそり狙われています
「手」
「手?」
「デート、なんで」
その言葉に、手の意味が『手をつなごう』ということだとようやく気づく。
手って……なんだか、恥ずかしい。
一瞬戸惑って、躊躇って、勇気を出して恐る恐る手を伸ばす。
そして指先が触れたのを合図にするように、来栖くんの手は私の手を低い体温で包み込んだ。
自分の手を覆ってしまうほどの長い指に男性を感じ、ドキ、と胸が鳴る。
手、大きいなぁ。ゴツゴツしてて、骨っぽい。
男の人なんだと、感じさせる。
……思えば、手をつなぐなんてどれくらいぶりだろう。
前の彼氏とも手をつないだのなんて付き合い始めの頃だけで、その後は一緒にいれば喧嘩ばかりしていたし、出かける時も手をつなぐことはなかった。
だからこそ余計に、差し出される手が嬉しい、なんて。
「井上さん、どうかしました?」
「う、ううん……別に」
そんな思いを隠すように首を横に振ると、買い物をするべく彼と手をつなぎ建物内を歩き始めた。