小悪魔な彼にこっそり狙われています
「か、かわいい〜……」
つい足を止めた私に、来栖くんも同様に足を止めてクレーンゲームを見た。
「取ってあげましょうか」
「え!?取れるの!?」
「多分。どの種類でもいいですか?」
首を縦に振った私に、来栖くんはつないでいた手を一度ほどき、右手の荷物を置く。
そして自分の黒いふたつ折りの財布から100円玉を取り出すと、器用にアームを操った。
そのアームはちょうどストラップをひとつ引っ掛けて持ち上げると、見事に取り出し口に落下させた。
「はい、どうぞ」
そう言って来栖くんが差し出すのは、コーギーの絵柄のメタルチャーム。手に取った実物はさらにかわいらしく、ほれぼれとしてしまう。
「ありがとう……あっ!100円!」
タダでもらうわけにはいかない、と慌ててバッグから財布を取り出そうとする私に、彼からは「ぷっ」と小さな笑い声。
「律儀すぎです、井上さん」
見れば、来栖くんはおかしそうに笑っていて、滅多に見られないその子供のような笑顔にまた胸がときめいてしまう。
『いらないですよ』、とでもいうかのように手で私の手を押さえる彼に、財布を取り出そうとした手を止めた。