小悪魔な彼にこっそり狙われています



「上手なんだね、クレーンゲーム」

「はい。学生時代によくやってたんで」



話しながら、少し休憩しようと近くの通路端にあるベンチに腰をおろす。

ふたり横に並んで座ると、少し歩き疲れた足から力が抜けた。



「けど井上さん、本当犬好きなんですね」

「えぇ。実家が獣医をやっていてね、犬が連れて来られることが多くて、かわいがってるうちに好きになってたの」



手元のストラップから隣に座る来栖くんへ目を向けると、彼はじっと私の目を見て口を開く。



「犬好きなら、自分も獣医になろうとか思わなかったんですか?」

「それはなかったかな。うちには兄がいるし……それに、私は動物の死が耐えきれなかったから」



獣医という職業は、大好きな動物たちに触れられる一方で死とも向き合わなければならないもの。

犬が好きだからこそ、私には耐えられないと思った。いつか必ずくるものだけれど、仕方ない、では割り切れない。



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