小悪魔な彼にこっそり狙われています
「じゃあ俺はとりあえず、一軒家建てられるくらい出世します」
「って、別に来栖くんととは言ってない!」
すかさずツッコミを入れた私に、彼はふっと柔らかな笑みを見せた。
こんなくだらない夢も、笑わず聞いてくれる。
嬉しい、なんて微笑んでくれる。
そんな彼のあたたかさに、また心はほぐされていく。
いつも来栖くんには、ドキドキさせられてばかり。
だけど不意にこうして、確かな安心を感じさせるから、胸の奥がくすぐったくなるんだ。
「……さて、買い物の続き行きますか」
「うん、そうだね」
少しの休憩を終え、私たちは買い物を再開させようとベンチから立ち上がる。
右手に荷物を持って歩き出そうとした来栖くんに、そっと差し出したのは自分の手。
「……来栖くん。手」
「え?」
「つなぐんでしょ。デート、なんだから」
かわいげなく手を差し出す私に、来栖くんは一瞬驚いたように固まって、次第に頬を緩ませる。
「そうですね、デートですから」
彼の嬉しそうな笑顔に、この胸も嬉しさを感じてしまうのはどうしてだろう。
問いかけても、答えは出ない。
けれどその気持ちを握りしめるように、つなぐ手に力を込めて、ふたりで一歩歩き始めた。