小悪魔な彼にこっそり狙われています
5.アンサー
来栖くんと歩いた日曜日。
一日中ずっとつないでいたこの手は、彼の感触をしっかりと覚えてしまった。
大きくてごつごつとしている、優しい手。
その低い体温をこの指先は覚えていて、今更だけれど、あの日彼に抱かれた夜が確かにあったのだと、この体が疼く。
遠い記憶の中の、あの夜の景色。
アルコールと人肌の気持ちよさに包まれた、夢心地の中で思い出すのは、熱い目で私を見るベッドの上での彼。
その目に見つめられ、腕に抱かれる度、熱い感情が込み上げて。
「……さん、……上さん、……井上さん!」
「はっ!!」
ある日の昼間。呼ばれた名前にふと我にかえると、目の前では女性社員が不思議そうに私の顔をうかがっていた。
「大丈夫ですか?ぼんやりしてましたけど……」
「え!?あっうん、大丈夫!ごめんね!!」
「いえ、大丈夫ならいいんですけど……あ、書類まとめたので確認お願いします」
よほどぼんやりしてしまっていたのだろう。
具合でも悪いのかと問うようなその目に慌てて誤魔化すと、私は彼女から書類を受け取り仕事を再開させる。