小悪魔な彼にこっそり狙われています



「あ、井上ちゃん。やっほー、お疲れ〜」



へら、と笑いながら『お話ししようよ』と言うように手招く彼に、社長を無視するわけにもいかず「お疲れ様です」と近づいた。



「この前は買い出しありがとね〜。特賞には僕がすごい景品用意したから、ビンゴ大会楽しみにしてて」



目と目をしっかり合わせて話す彼に、「はぁ」と短い返事を返す。そんな私に対しても、彼は笑顔のまま。



「そういえば総務課や秘書課のみんなから聞いたんだけどさ、最近井上ちゃん雰囲気変わったんだって?」

「え!?いや、それは……」

「なになに、恋でもしちゃった?社長さんに教えてごらん〜」



桐生社長はそうひやかすようにふふふと笑い、私の肩を抱く。

こっそり教えてごらん、と顔を近づける彼からは、ほのかに香水のいい香りが漂った。



「桐生社長」

「ん?なになに……あ」



すると名前を呼んだ来栖くんが指さす方向を見れば、秘書課のオフィスの入り口にはこちらを見るスーツ姿の女性社員の姿がある。

社長秘書である彼女は冷ややかな目でこちらを睨んでおり、それを見た途端桐生社長は笑顔をひきつらせ、私から手を離した。



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