小悪魔な彼にこっそり狙われています
「……はぁ。今回は受け取るけど、次回は気をつけてよね。それとせめて綺麗な用紙に書き直すくらいはしてきて」
「は、はい!すみませんでしたっ……」
笑顔ひとつなく言いながらよれた紙を渋々受け取ると、彼女は深々と頭を下げる。
そして涙を拭いにいくのか、バタバタとオフィスをあとにした。
彼女・町田さんはきっと悪い子ではないのだと思う。そう、根は真面目でいい子なんだ。
けれど今年の春に入社したばかりの短大卒で、まだ20歳と若いから社会経験も浅い。
それに加え、もともと少し抜けている子のようで、こうした提出物の遅れや仕事のミス、ついうっかりということがすごく多い。
そういったミスなどを注意することも、私の仕事のうちだ。
誰に対してもついきつい言い方をしてしまうことが多いけれど、彼女に対しては『またか』という苛立ちが混じる分、いっそう厳しい言い方になってしまう。
しかもそれも、もはや日常的なことになりつつあるのだ。
けど、ああして悲しげに涙をこらえられると、自分が悪役のようだと私自身も思う。
きつく言い過ぎたかな。もっと優しい言い方をするべき?けど優しく言ってまた同じことをされても困る。
上の立場としてどうするべきが正しいのかが未だに分からず、「はぁ……」と深い溜息が出た。