小悪魔な彼にこっそり狙われています



「……はぁ。今回は受け取るけど、次回は気をつけてよね。それとせめて綺麗な用紙に書き直すくらいはしてきて」

「は、はい!すみませんでしたっ……」



笑顔ひとつなく言いながらよれた紙を渋々受け取ると、彼女は深々と頭を下げる。

そして涙を拭いにいくのか、バタバタとオフィスをあとにした。



彼女・町田さんはきっと悪い子ではないのだと思う。そう、根は真面目でいい子なんだ。

けれど今年の春に入社したばかりの短大卒で、まだ20歳と若いから社会経験も浅い。

それに加え、もともと少し抜けている子のようで、こうした提出物の遅れや仕事のミス、ついうっかりということがすごく多い。



そういったミスなどを注意することも、私の仕事のうちだ。

誰に対してもついきつい言い方をしてしまうことが多いけれど、彼女に対しては『またか』という苛立ちが混じる分、いっそう厳しい言い方になってしまう。

しかもそれも、もはや日常的なことになりつつあるのだ。



けど、ああして悲しげに涙をこらえられると、自分が悪役のようだと私自身も思う。

きつく言い過ぎたかな。もっと優しい言い方をするべき?けど優しく言ってまた同じことをされても困る。



上の立場としてどうするべきが正しいのかが未だに分からず、「はぁ……」と深い溜息が出た。



< 8 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop