小悪魔な彼にこっそり狙われています



そしてガチャリとドアを開けた、その時。



「お願い、私まだ晶のことが好きなのっ……」



その声とともに目に飛び込んできた光景は、広い会議室の中で涙ながらに胸にすがる小柄な女性社員。

そしてそんな彼女に抱きつかれている、来栖くんの姿……。



予想もしなかった光景に驚き固まる私の目の前で、突然現れた私に同じく驚き固まるふたりは、そのままの体勢でこちらを見た。



「い、井上さん?」



珍しい、来栖くんが目を丸くして私を見てる……じゃなくて。

えーと、これは、どんな状況?



驚く来栖くんに、彼の胸に抱きつくのは泣き顔もかわいい女性社員……確か彼女は、営業部の事務員だ。

以前男性社員が『すごくかわいい子がいる』と噂をしていたのを聞いたことがある。確か年齢は、私より7つは下だったはず。



そんな彼女が、来栖くんと……えーと、と、とりあえず。



「……お、お邪魔しました」



それだけをつぶやくと、私はすぐドアを閉めてその場を離れた。



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