人魚の詩

転校生

教室を包む暖かい光と涼し気な風に少しばかりの夏の匂いを感じ、眠気を誘うこの空気はまだ春が過ぎ去っていないことを教えてくれるような気がしてならない。

斎藤貴弘は教室の窓側1番奥の席で春の空気を感じていた。
騒がしいクラスメイト達の声をチャイムが静する。朝のLHR前のこの時間はやはりまだ眠たい。
朝の寝起きが悪い貴弘のテンションが下がっているのもあるのだが、彼のテンションはもう少しで上昇するだろう。
今日の1時間目は体育なのだ。
先週、体育の駒田は次の時間は体育館でバスケと言っていたから貴弘は楽しみにしていた。

パスッパスッとスリッパの音が聞こえる。
気怠そうに歩く担任の姿が目に浮かび
1日の始まりか、と貴弘は欠伸を我慢する。
ガラッと開いたドアから入ってくるのは担任の高岡だ。

「おはよーーっす。」

高岡は国語教師で、教師の中で1番若い。
少し整ったルックスと、教師には合わない少し砕けた言葉遣いからであろう。
女子生徒からの人気は高かった。
いつもと同じ光景、今日もつまんねぇ1日が始まんのか。と貴弘は思った、が。

「隠し子?」

貴弘は呟いていた。
思ったより大きな声で呟いていたのだろう。
高岡の後ろには小さな女の子が立っていたのだ。
高岡は貴弘の方を見て言った。

「んなわけねーだろうが。転校生だ。」

転校生?聞いてないぞ?
とクラスは少し騒がしくなる。
大体、この時期に転校してくるとはよっぽどの事情があったんだろう。
高岡が自己紹介しろ、と転校生に言うと彼女は細い声で喋った。
< 2 / 8 >

この作品をシェア

pagetop