人魚の詩
1時間目が終わり、教室にぞろそろと生徒が戻ってくる。熱いだの、朝からだるい、だの文句しか聞こえない。

「おーい、貴弘!サボりとかずりーぞ!」

寝起きと暑さで少し機嫌の悪い貴弘は適当にはぐらかした。机に突っ伏していたからか、制服のシワの跡がくっきりついた顔を上げ、ふと教室に目をやるとあることに気づいた。

「……なあ誠。チビ太は?」

「チビ太?ああ、高岡さん?なんか保健室行ったよ。体弱い系?なのかわかんねーけど、体育もやってなかった。」

へえ、と気にしてそうな気にしてなさそうな雰囲気を出す貴弘に彼の親友、佐藤 誠は今までに見たことのない反応を見せる彼をからかう。

「何〜〜?気になんの?!」

「はぁ!?別にそんなんじゃねえよ。」

図星といえば図星だった。
恋愛感情とか、そういうわけではないが
貴弘の中では他の女子とは違う感じがしていた。

「体弱い系、ねぇ。」

転校してきて1日目の1時間目は見学。
2時間目は保健室。

「でも高岡さんさぁ、クラスに馴染めないんじゃねーの?このままだと。」

転校してきて1日目、彼女は3時間目に早退したらしい。




次の日の朝、学校につくと彼女はもうすでに席に座っていた。
まだ数人しか人がいない教室でも少し騒がしいな、と感じてしまうくらい外は静かで
教室から海の見える学校なんて漫画の中とこの街だけだと思う。

「はよ、チビ太」

軽く挨拶をすれば、彼女はちらっとこちらを見る。
けれど、特に目を合わせるでもなく微笑むでもなく頬杖をついたままだった。

「おーい。おはよう、って言ってんだろ?お前、挨拶もできねぇのかよ。」

冗談ぽく笑ってそういえば、少しムッとした表情でこちらを見た。
やっぱり可愛い。貴弘は不覚にもそう思った。

「…おはよう」

不意に、つかれたその言葉に少し貴弘も戸惑った。自分で挨拶を促しながらも、まさか返してくれると思わなかったからだ。

「やればできんじゃん。体調大丈夫か?」

「子供扱いしないで。別に、具合悪いわけじゃないから。」

「えっ、そうなの?なんだよ、心配したじゃん」

その瞬間、目をまんまると見開く彼女に貴弘は驚いた。そして焦った。
何かまずいこと言ったか…?と。

「心配…?」

「え?ああ…心配したよ。来たばっかなのにいきなり帰るから。」

「そっか…ありがとう」

なんだ?今日はやけに素直だな…。
そんなふうに思ったりもしたが、普段の彼女を知らないのでこういうものなのかと思った。


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