人魚の詩
「兄弟とかなんじゃねぇの?苗字一緒だし。」
「先生、妹なんていないよ。」
「じゃあ、普通に親戚なんじゃない?」
騒ぐようなことでもないだろ、と2人は女子を静したが貴弘の胸中はもやもやとしたものが渦を巻いていた。
先生と一緒に住む、ってどういう状況だよ。
兄弟?
いや、そんなんいねーし。
親戚?それなら親は?
考えれば考えるほど貴弘の胸中は晴れない。
「まあ、家庭の事情ってやつだろ。」
結局、そう親友に宥められ、ああ。そうだな。としか言えなかった。
「それにしても、ちょっと心配だよな。見に行くか?」
「え?ああ、そうする。」
貴弘と誠は、教室を飛び出した彼女の様子を見に行った。
「まあ、仕方ないんじゃねーの?俺としては仲良くしてやってほしいけど、夏希が無理って言うなら、俺も何も言わないから。」
中庭の方から聞こえた、聞き覚えのある声。
声の主は担任の高岡先生だった。
そこには、彼女もいて普段教室では見せないような屈託のない笑顔で話していた。
「別に夏希だって、あんな人達とは仲良くしたくない。学校には恭ちゃんがいるし不自由はしてない。けど…」
「けど?」
「ちょっと、話してもいいかなって思う人はいる。」
貴弘は瞬間に思った。
俺じゃない。
そして、同時に芽生えたのは
彼女への恋心だった。
一目惚れしたわけではない。
ただ、見た瞬間に「好きになるんだろうな」という感じを貴弘は確かに感じた。
でも、あいつが好きになるのは
きっと俺じゃない。
貴弘はそう確信していた。
「俺、こういう感って結構当たるんだよね。」
「……なんの話?」
高岡に屈託なく笑う彼女を、愛おしそうに見つめる彼を見て気づかないわけがない。
彼の親友なら尚更だ。
「俺、この前合コンで超〜可愛いのとアドレス交換しちゃった。抜け駆けして悪いな貴弘。」
「はっ?聞いてねーよ。」
「言ってねーもん。高岡さん大丈夫そうだし、戻ろうぜ!」
これだから、誠はモテるんだ。
何があってもこいつとはずっと友達でいるんだろうな、と感じた貴弘だった。
「俺が女だったら、お前に惚れてるよ。」
「はぁ?なんだそれ気持ち悪!」
教室に戻る廊下で響く彼らの声に
少し笑みをもらした彼女を誰も見てはいなかった。